「読みづらさ」と向き合う工夫と本音 ― みおさんの体験

社会人になり、仕事で「早く読んで理解しなければならない」場面に直面して初めて、自分の「読みづらさ」に気づいた、みおさん。学生時代には問題なかったものの、事務業務やスピードを求められる職場で、文字情報を処理することに大きな負担を感じるようになったといいます。
「人に知られるのは怖い」と感じつつも、どうすればより理解しやすく、働きやすくなるのか。日常や職場で直面する困難や工夫ついて、みおさんにお伺いしました。

みおさん:

みおです。30歳です。事務系の仕事を5年ほどやってます。接客系の仕事が好きで、以前は接客業だったんですが、体力的に疲れてしまい、事務に転職しました。

おとなLDラボ_Ten:

今回アンケートの方では、LDの診断はないけど「読み」に関する困りごとがあると書いていただいていています。「読み」の困りごとがあると感じたのはいつぐらいからですか?

ノートパソコンを前に頭を抱え、ストレスを感じている様子の女性。

みおさん:

会社に入社したての時ですね。前の仕事が接客系だったのが転職して事務職になって、「読むのがちょっと疲れるな」とか、読むのは嫌いじゃないんですけど仕事で「早く早く!」ってなってる時に、「読んで全部理解しなきゃ」ってなって、焦っちゃう感じです。

おとなLDラボ_Ten:

なるほど。文字の認識は問題ないけど、意味として処理する部分で困りごとが発生するような?

みおさん:

そうですね。何回も人に聞けないし、文字だけだと(自分の)理解が合ってるか、不安になっちゃいますね。

おとなLDラボ_Ten:

文字からの吸収がうまくできてないっていう感じですね。その中でも「これは読みやすいな」とか、逆に「こういうのは読みにくいな」というのはありますか?

例えば、ウェブの記事などを読むときに、読みづらさを感じることはありますか?

みおさん:

それはあんまり・・・ないですね。

やっぱり仕事で早く読まなきゃいけない、期限があるというところが結構強くて。

おとなLDラボ_中井:

ゆっくりだったら読めるけど、スピードを上げて読まなくちゃいけない場合は、難しく感じる?

みおさん:

そうですね。

おとなLDラボ_Ten:

幼少期の頃のお話も聞いていきたいなと思うんですけど、小学生の時などでも読みに関する困りごとはありましたか?

みおさん:

あんまりなかったですね。社会人になってからです、本当に。

おとなLDラボ_Ten:

高校入試とか大学受験とかのときは?

みおさん:

大丈夫でした。仕事って正解がないから、文脈に(よって)違うことが多すぎるというのも大きいですね。

おとなLDラボ_中井:

社会人になって読みに早さが求められたり、正確性が求められて読みにくいというお話をされていらっしゃいましたが、学生時代にも「これ早く読みましょうね」とか、英語を「時間内に解読しましょうね」という授業があったりしたと思うんですけど、その時は特に難しさは感じられなかったんでしょうか?学校時代の速さを求められるところと、社会人時代の違いはどんなところだと思いますか?

みお:

人によって言うことが違う部分が大きいですね。完璧に認識が同じというのが(無い)。

おとなLDラボ_中井:

確かに。学校だと正解があるけど、仕事だと人によって伝え方が違うから難しいんですね。

みおさん:

そうですね。グレーゾーンが多すぎるのが辛いですね。

おとなLDラボ_Ten:

もう一つ特性としてお持ちのADHDは実際に診断はついていらっしゃるんですか?

みおさん:

診断はついていないです。

おとなLDラボ_Ten:

診断はついてないけどADHDかもしれないなと感じている?

みおさん:

そうです。「早くしなきゃ!」って感じる部分とか。

おとなLDラボ_Ten:

診断を受けてみたいなと思いますか?

みおさん:

怖いですね。特に別に診断をつけてもらうために病院を探そうとかというのはあんまりなく…今はしてないですね。

おとなLDラボ_Ten:

現在の事務の仕事で読みづらさを感じている部分で工夫されていることはありますか?

みおさん:

スクリーンショットを撮って、後で見返せるようにしています。あとは録音とかもたまにしますね。新しい作業をやる時には、スクリーンショットや画面の操作を動画で撮ったりしています。

ノートパソコンで日本語の請求書を映している人の手元。

おとなLDラボ_Ten:

例えば、資料を読み込まないといけない時などはどうされていますか?

みおさん:

少し慣れてきたところもあるので、学校の授業みたいに 赤ペンで線引いたりとかが多いですね。

おとなLDラボ_Ten:

そういう対応をする際には、どのように周りに伝えていますか?

みおさん:

前置きとして、「忘れちゃうかもしれないので」とか、言っておきます。

おとなLDラボ_中井:

特にLDということは言わずに?

みおさん:

そうですね。はい。

おとなLDラボ_Ten:

逆に仕事以外の日常生活などで困ることはありますか?

みおさん:

日常生活は・・・引っ越しとかがちょっと苦手ですね。行政の処理とか確定申告とかも苦手です。申請の資料を読んだりとか手続きのやり方…行政のサイトってすっごい見にくいじゃないですか。読むのに疲れます。

おとなLDラボ_Ten

今まで見た中でどの行政のどういうページが一番見にくいと感じましたか?

みおさん:

確定申告に関するページはやっぱり難しいですね。どう進めたらいいか分からない。医療費控除をやりたいだけなのに、すごいサイト内を回って、Q&Aとかも見まくって、ようやく「こうやってやるんだ」ってところが多すぎて。

おとなLDラボ_Ten:

確かにすごくわかりづらい部分が多いですよね。僕もよく税務署に何回も電話したりとかしてました。

逆に日常生活の困る部分で、解説記事などで「これ分かりやすかった」とか、「こういうツールを使えばわかりやすく読めた」ということはありますか?

みおさん:

ないですね…。

おとなLDラボ_中井:

お話を聞いていて、例えば行政のサイトだと、どちらかというとサイトの読みにくさというよりは道筋が多いがゆえの難しさかなと思ったんですが。

みおさん:

読みにくさも道筋もどちらもあるかな、と思います。

おとなLDラボ_Ten:

最近さまざまなAIツールがありますが、そういう場面でAIを活用されたことはありますか?

みおさん:

AIツールは、本当に自分の考え方の整理がメインで、行政処理にはあまり使ってないですね。

逆に(自分のやりたいことと)全く同じ回答を見つけられなくて「あれ?違うやん」っていうことが結構多かったりするんです。例えば windowsのOutlookとかWordとかの操作方法を探すと「あれ?画面違うじゃん。全然やり方わからない」ってなりながら、最新の記事にたどり着いて、ようやく「わかった」ってなるときがたまにあるじゃないですか。そういうのが何度も続くと疲れちゃいますね。

おとなLDラボ_Ten:

よくありますよね。

今、読みの困りごとに対しては、会社では動画を撮らせてもらったりしてうまく働けてるということですが、それ以外に例えば、こんな合理的配慮やツール、サービスがあればもっと自分の生活が良くなるかもと思うものはありますか?

みおさん:

仕事の参考書が欲しいです。一般的ビジネスマナーじゃなくて、その企業の攻略本とかがあれば最高だなと思いますね。事務作業のやり方とか…できるわけないのは承知ですけれども。

おとなLDラボ_Ten:

なるほど。今、会社によっては、AIにさまざまな情報を覚えさせて、AIに質問したら適切な情報を出してくれるみたいなことに取り組んでいる企業があるんですよ。そういうのは今後広がっていきそうですよね。

みおさん:

具体的に「見積もりどっちの日時がいいか」とか「月をまたいじゃったら書類はどうすればいい」とかって、会社によってルールが結構違うじゃないですか。

そういうルールって口頭でしか伝えられていないことが多すぎて、それに疲れてしまうんです。

おとなLDラボ_Ten:

そういう質問をしたらすぐに分かりやすく回答してくれるツールがあったら良さそうですよね。

みおさん:

そうですね!

「このAというファイルはどこに格納すればいいですか?」ってきいたら「このリンゴ(赤)というフォルダーの中に「リンゴ」というフォルダーがあるので、その中の「1」というフォルダーに入れてください」のように具体的に答えてくれるといいですね。

おとなLDラボ_Ten:

そういう困りごとを持つみおさんが、今まで出会ってよかった人っていますか?

みおさん:

読みづらさという文脈では、残念ながらいないですね。

おとなLDラボ_Ten:

もし同じような困りごとを持つ人とつながれる場所があれば、参加してみたいなと思いますか?ADHDやASDなどの当事者会や自助会なども最近増えていますが、参加されたことはありますか?

みおさん:

参加はしたことないです。参加したいかどうかは、場合によりけりですね。他の人にバレるのが怖いみたいな気持ちもあります。

おとなLDラボ_中井:

先ほど、赤い印をつけて文字を理解しているとか、マニュアルとかに印をつけて理解しているというお話があったじゃないですか。どういうふうに理解されているんだろうなと思って…例えば印を引くと文章を分解しているように見えて理解しやすくなるんでしょうか?

みおさん:

分解ですね。情報の羅列から分解して、自分の情報として、情報が近くにあるような感じにできますね。

おとなLDラボ_Ten:

読みの困りごとを持っている人にお話を聞くと、本当に人によってさまざまなんですよね。人によってはフォントや行間、文字サイズを変えると読みやすさが変わるという方もいるのですが、みおさんはいかがですか?

みおさん:

私は、文字が大きいのが苦手です。情報を整理するのはいいんですけど…例えば、スマホのランディングページがすごく苦手なんですよ。読みづらいし、情報がなさすぎて、でも文字が大きくてすごく窮屈に感じます。手に入れたい情報を占拠されてる感じがしてとても疲れますね。

スマートフォンで「Landing Page」と書かれた画像を確認している人の手。

※ランディングページ
Web広告などをクリックした人が、最初に表示するページ。1ページで完結する

おとなLDラボ_中井:

例えばホームページってよく画像が載せてあったりアニメーションが載せてあったりするじゃないですか。そういう情報がたくさんあるサイトと、例えば文字が最適化されたサイズで載せてあるサイトだったらどっちが見やすいですか?

みおさん:

最適化と、あとは画像もあった方がいいですね。

おとなLDラボ_中井:

画像と文章のシンプルなサイトがいい

みおさん:

そうですね。私はフォントはあまり関係なくて、程よく隙間や余白があるのがいいです。

行間というよりは、画面の中に文字がない部分が多いと読みやすく感じます。

おとなLDラボ_Ten:

なるほど。確かにディスレクシアの方、文字の読みがしんどい方は文章がかたまりになっているよりも、箇条書きの方が読みやすいという方が多いので、みおさんもしかしたらそのタイプなのかもしれないですね。

おとなLDラボ_中井:

LDの読みが困難な方でよく言われるのが、例えば文字が読めない代わりに画像として自分の中でイラスト化して変換するという話を聞くんです。そうしたら理解しやすいと言うかたがいらっしゃって。スクリーンショットとか画像の方が理解しやすいというお話もあったので、もしかしたらみおさんも同じように、文字を理解するときにイメージ的な理解をされているのかなと思って。

みおさん:

イメージ的な理解もあるかもしれないですね。今言われて気づきました。

おとなLDラボ_Ten:

それでは最後にみおさんと同じような困りごとをお持ちの方に対して一言 メッセージをいただきたいです。

みおさん:

録音とスクショは絶対必須ですよ!

インタビューを終えて

学生時代の「正解がある世界」と、社会人になって直面する「人によって正解が異なる世界」との間で戸惑う姿が、強く伝わってきました。そのなかで、自らの障害を診断という形で受け止めることに抵抗を感じながらも、録音やスクリーンショット、マーカーで線を引くといった工夫を重ね、自分なりの方法で困りごとと向き合っている。みおさんのその姿はとても印象的であり、力強さを感じました。

本記事は、朝日新聞厚生文化事業団による「『発達障がい』とともに生きる豊かな地域生活応援助成2025」を受けて実施したインタビューをもとに作成しました。